みなさま、こんにちは。
バレエ安全指導者資格®︎事務局です。
今回のコラムでは、『怪我で出られなくなってしまった生徒さんへの対応、そして先生への提案 – 「出られないこと」を、次の学びに変えるために』という長いタイトルですが、先生へご提案をさせていただきたいと思います。
発表会というのは、生徒にとっても先生にとっても、一年の集大成であり、特別な時間です。
その直前に生徒が怪我をしてしまった、、、。
きっと、どの先生にとっても胸が痛む出来事でしょう。
でも、その時こそ、教育者としての在り方が問われる瞬間です。
バレエの世界では、「舞台に立つこと」が目標のように思われがちです。
だからこそ、怪我をしても踊りきる姿は称賛され、「痛みに耐えること」や「限界を超えること」が美談として語られてしまう。
けれど、それは本当に子どもを守る行動でしょうか?
一時の感動の裏で、「我慢こそが強さ」という誤った成功体験を植えつけてしまう危険もあります。
それは教育ではなく、自己犠牲の再生産ともいえます。
「出るか出ないか」ではなく、「どう関わるか」を育てる
スポーツの世界でも、似たような場面があります。
たとえば、チームのエースが怪我をしてしまったとき。
その子が出なければチームが負けてしまう。
そんな状況で、監督が取るべき行動は何でしょうか。
勝ち負けを優先して無理をさせることは、長い目で見ればその子の未来を奪う行為にもなりかねません。
さらに、痛みを抱えたままでは、結果的に良いパフォーマンスも発揮できません。
つまり、「出るか出ないか」だけに焦点を当てること自体が、本質を見誤ってしまうのです。
舞台も同じです。
大切なのは「出るかどうか」ではなく、「出られない時間をどう過ごすか」。
振付を痛みのない形に変える、別の演出で参加する、裏方として舞台を支える。
その子が関われる方法は、いくつも存在します。
「出ないこと=終わり」ではなく、
「関わり続けること」こそが教育の本質です。
発表会は単なる成果発表の場ではなく、成長の通過点。
結果を求める前に、その過程で何を学び、どう人として育つかを共に考え、伴走する。
それが、先生の最も大切な役割なのです。
プロを目指すなら、今こそがチャンス
ましてプロを目指している生徒なら、夢を叶えた先では、突然の怪我を含め、舞台に立てない瞬間は必ず訪れます。
では、そのとき、どう過ごすか。
それは学校でも稽古場でも教えてはもらえません。
だからこそ、今この瞬間はチャンスとも捉えられないでしょうか。
休む以外にもできることがある。
身体を見直す、仲間を支える、作品を外から観る。
その時間にしか得られない学びがあります。
そして、この悔しさや悲しさを糧に、次に向けてどう過ごしていくかを戦略的に考えていく。
そういった姿勢の中に、生徒を育てるという本質があるように思います。
プロと教育の違いを知る
たとえば、もしこれがプロの舞台であれば、キャスティング変更は当然の判断です。
観客からお金をいただく以上、作品の完成度を最優先するのはプロとしての当たり前のこと。
さらに、年間に何十ステージも踊るプロダンサーにとっては、自己管理こそが仕事を続けるための必須スキルでもあります。
しかし、発表会は異なります。
それは「教育の場」であり、「結果よりも過程」にこそ価値がある場所です。
出演できなかったことを“失敗”と捉えるのではなく、その出来事そのものを学びに変えることが重要です。
そのためには、先生や保護者だけでなく、心理師などの専門家が関わり、子どもたちが安心して経験を受け止められる環境を整えることが欠かせません。
お金と仕組みの工夫も教育の一部
現実的な問題として「出演料はどうするの?」という声もあります。
現実的な問題として、「出演料はどうするのか」という声は避けて通れません。
これはお教室の運営にも関わる大切なテーマです。ここでは一つの考え方として、参考までに整理してみます。
たとえば出演料が5万円だとします。
先生方にとっては、舞台を作り上げるための経費として、その全額が必要なことも多いでしょう。
そのため、出演できなかった生徒に全額を返金してしまうと、舞台そのものが赤字になる可能性もあります。
しかし、発表会に向けた特別レッスンや練習などを考えると、出演料には「指導料」としての要素も含まれているのが自然です。
そのうちどの部分が指導料で、どの部分が出演に関する実費なのかを、あらかじめ明確にしておく。
たとえば「出演できなかった場合は、出演分のみ返金する」といったルールを事前に定めることで、双方に安心感が生まれます。
これは単なる経理処理ではなく、スタジオを運営する上での「信頼を構築する設計」ともいえます。
教師が持つべきもう一つの視点
先生の中には、
「なぜ怪我をしたの?」
「私の作品を台無しにしないで」
と思う方もいらっしゃるかもしれません。
でも、もう一度冷静に考えてみましょう。
教育者としての目的が“人を育てること”であるならば、今まさにその機会が訪れているのではないでしょうか。
生徒を主体にすれば、今回の出来事は“失敗”ではなく“新しい課題”
「今回は出られなかったけれど、どう次につなげるか」
「痛みを通して、身体の声を聴けるようになるには」
繰り返しになりますが、それを一緒に考えることが、教育の本質だと思います。
怪我を「未来の教材」に
発表会を短期的な成否で終わらせるのではなく、長期的な学びへとつなげる。
その視点を先生自身が持つことが、生徒にとって最大の救いになります。
教育とは「今を超えて未来を育てる営み」
今の痛みを無理に乗り越えさせるのではなく、その痛みの意味を一緒に見つける。
それが、次のステップへの支えになります。
自己犠牲ではなく、自分を大切にする強さを
教育者が長期的な視点を持つことで、生徒は「自己犠牲ではない努力」を学べるでしょう。
「痛みを隠す強さ」ではなく、「自分を守る勇気」を身につける。
バレエは人生を映す鏡です。
だからこそ、指導者の一言が、その子の人生観をつくるのです。
終わりに
こうした視点を学び合う場として、
「バレエ安全指導者資格®」では、怪我・身体・心理・教育を横断的に学び、
“安全と芸術の両立”をテーマに、指導者が成長するための学びを提供しています。
痛みを美化せず、努力を正しく導くこと。
それが、これからの時代にふさわしい「教育としてのバレエ」の姿であり、
次の世代のダンサーを守り育てる、最も誠実なあり方だと私たちは考えています。
バレエ安全指導者資格®︎ 事務局