Ballet Medical Support Team

バレエダンサーのための医学ケアサポート

Ballet Medical Support Team(BMST)は​医師、管理栄養士、トレーナーなどそれぞれの専門分野のプロフェッショナルにより構成されたバレエダンサーのためのメディカルサポートチームです。

スポーツ医学の分野では、整形外科的な疾患にとどまらず、内科や婦人科、皮膚科、精神科、栄養学や運動生理学まで多方面の知識を総合して選手の健康状態の維持管理やパフォーマンスの向上をサポートしています。

BMSTではバレエダンサーもまた【Artistic Athletesである】という考えのもと、スポーツの世界と同様にサポートを行うには様々な方面の知識が必要だと思っております。

なぜならバレエは芸術でありながらも通常の人間の範囲を超えて身体を最大限に使うことを要求されるハードな運動だからです。 

例えばターンアウト、高い跳躍、回転、ポワント、男女で踊るパ・ド・ドゥなど、見た目は美しく伸びやかに見える動作一つ一つに高い負荷や関節のストレスになる動作が存在します。

正確に身体をコントロールする神経系のトレーニングや計画的、段階的に筋力をつけていくことでそれらテクニックを安全に行うだけのスキルを身につけることが出来ることもわかってきていることではありますが、それにも関わらずバレエにおいて怪我や障害が起こりやすくなっている原因は何でしょう。

バレエにおけるその根源的な問題は、バレエが求める身体の使い方を、個人個人の骨格の向き不向きにかかわらず半ば強制させられることにあります。

これは海外と日本との大きな環境の違いでもあります。

海外ではもともとバレエに適した骨格の生徒のみが、バレエに必要な身体の使い方の特別な訓練を受けたのちにバレエダンサーとして劇場やカンパニーに就職をして踊ることになります。

まさに職業訓練所とも呼べるバレエ学校の存在が海外にはあるのです。

ですが日本にはその場がありません。

生徒の骨格が適していない場合でも適した骨格の生徒が受けるべき内容のプログラムを何のフォローもなく受けてしまっていることが要因で、結果障害につながっているということが数多くおきていると思われます。

しかしだからと言って骨格が適さないものはバレエをしてはいけないか、というとそんなことはありません。正しい身体の使い方を身につけ、それぞれの骨格にあった範囲で、バレエを踊る分には問題はないでしょう。

しかしその範囲を逸脱している場合、大人でも子供でも障害が起きてしまいます。(プロもまた同様です)

そしてこの自分の骨格の範囲内で踊る、ということがなかなかできない状況に今のバレエ界はあります。それはバレエ特有の【美】の基準があるからです。

たとえばバレエにおける基準のプロポーションを作るためには食事と身体の使い方の両方の知識やスキル、教育が必須となります。スポーツにおける審美競技や体重が軽いことが有利となる長距離走選手などとも異なる栄養摂取と身体の使い方を行わなくてはなりません。

単に体重を落とすだけでも、筋肉をつけて体脂肪を落とすだけでもない、バレエに必要な筋肉のみを発達させ、そのほかを削ぎ落とすということが必要となるのです。

ですが現在のバレエ界の状況ではバレエダンサー自身、そしてバレエの指導をする先生方に、身体や障害、そして身体を作るための栄養についての知識が十分に浸透しているとは言えません。

そこが改善されない以上、バレエ障害は今後も起き続けるでしょう。

スポーツ選手の場合はチームドクターやトレーナーもついているため怪我や故障への危機感もあり、その際にどう対処したらよいかの適切な情報が比較的得られやすい環境にあります。

しかしバレエの世界では芸術の名の下に医学的な情報を教わることのないままに全て曖昧にされ見過ごされ、またそれらの問題と向き合うことなく放置されているのが現状でもあります。

習い事とプロフェッショナルとの境目が曖昧な日本の独特なバレエ文化が生み出した特徴でもあるかも知れません。

バレエもスポーツの世界と同様に、ジュニア期から本格的なレッスンが行われます。

バレエダンサーを目指して本格的なレッスンを行うことは想像以上にハードであり、肉体を酷使することになります。女性アスリートの三主徴といわれる問題はバレエダンサーにも起き得ます。

しかし、スポーツを行うのと全く同じ肉体を使って表現されるものが『アート』であるというだけで曖昧にされ、何かオブラートに包まれているように見えてこないものがあり、そのために犠牲になっている身体がある、ということは大きな問題ではないでしょうか。

そして事実としてバレエは怪我や障害の報告が多いにも関わらず、指導をする側のモラルやスキルを向上させる場がないことも問題の根本的な原因であると感じます。

本来、運動を指導する場合は何らかの資格が必要となります。

解剖学などの知識だけでは実際の指導はできません。 

またバレエの世界では怪我や障害が起きた場合に民間療法に頼るダンサーが多く、実際の診断もされないままに長年経過している症例も多々あります。日本において怪我や障害の際に診断が可能なのは法律上医師のみであり、怪我や障害が起こった時まずは医師の診断を求める必要があります。

これらのことをバレエ指導者、そしてバレエダンサーはどこまで理解できているでしょうか。

医学的知識を通してバレエ障害の予防に努め、結果としてパフォーマンスの向上に繋がることを目的とし、心身ともにサポートできるように多方面からのアプローチを行なっていきたいと思っています。

BMSTではバレエダンサーやその指導者、保護者の方々に是非知っておいていただきたい情報も積極的に発信していきますので、バレエ障害を診る可能性のあるドクターにも参考にして頂けると幸いです。

芸術家もまた一人の人間としてその健康が守られ、芸術家自身がその人生を不安なく豊かに過ごしていけるようになる世界を目指して。