みなさま、こんにちは。
バレエ安全指導者資格®︎事務局です。
今回は、『うつろう人気よりも、揺るがない基盤を築くために』というテーマで、お話していきたいと思います。
長い時間を見据えて生きるということ
バレエを踊る人、そして指導する人にとって、今の状況がいつまでも続くわけではないことは心のどこかで理解しているはずです。けれども日々のレッスンやスタジオ運営に追われ、20年後、30年後の自分を思い描き、準備をしている方は正直なところ決して多くないでしょう。
身体は年齢とともに変化し、若い頃と同じように動けるわけではありません。そして自分自身もライフステージの変化とともに変わっていきます。だからこそ大切なのは、今だけに集中するのではなく、長い時間をかけて何を積み重ねていくのかを考えていくこと、意識して過ごすことです。
「今」だけにとらわれる危うさ
若い頃は「この瞬間にすべてを賭ける」という思いが強くなりがちです。舞台で結果を出すこと、レッスンで成果を見せることに全力を注ぐ。その姿勢自体は尊いものですが、それだけに偏ってしまうと未来を見る力が失われることもあります。
舞台に出続けることでさえ、気づけば、これまでの努力が一瞬ごとの切り取りに終わり、大きな道筋として積み上がっていないことに後から気づくということもあります。芸術家がときに「破滅的」とさえ言われるのは、目の前だけを見てしまう傾向があるからかもしれません。
そして、多くの方はそのような生き方はできません。
なぜそのような生き方ができるのか、理解もできないかもしれません。
ですから、その生き方について『すごいね』と評されるかもしれません。
しかし現実の人生は、それで逃げ切れるほど甘くもなく短くもありません。
蓄積を意識する生き方
大切なのは、毎日の経験や学びを「蓄積」として捉え、未来へとつなげる姿勢です。今日のレッスンも、ひとつの舞台経験も、その瞬間で終わるのではなく、20年後、30年後の大きな流れの一部として積み重なっていく。そうした視点を持つことが、安心して長い人生を歩むための基盤になります。
経済的な自立も同じです。
バレエは芸術であると同時に、経済活動でもあります。特にバレエで生計を立てようとするなら、それは紛れもなく経済活動です。
しかし多くの指導者は社会の仕組みについて学ぶ機会を持たず、経験や感覚に頼ってきました。
その理由は明白です。
私たちはバレエの上達に膨大な時間を注いできましたが、「どう生きていくか」を体系的に学ぶ機会はほとんどありませんでした。留学やバレエ団への入団といった目標は掲げても、その先の経済的な自立については「夢が叶ってから考えるもの」と後回しにしてきたのです。
しかし現実には、その「後回しにしてきた問題」と、いつ・何歳で向き合うかが大きな課題となります。遅れて向き合えば向き合うほど、すでに一般社会で経験を積んでいる周囲との差を強く感じ、焦りや苦しさにつながることがあるのです。
データによると、この10年でバレエ人口は3分の1に減少しました。少子高齢化をはじめとする社会的変化は、スタジオを運営されている方は気づかれていると思いますが、すでに直接的にバレエの現場にも影響を与えています。目先の5年、10年の間にも大きな変化が訪れることは明らかであり、従来のように「なんとなくバレエの先生になる」だけでは、成り立たない未来がやってくるでしょう。
目の前の人気や収入だけを見るのではなく、「40年後も安心して生きていける基盤」をどう築いていくか。その視点を持つことが、これからの時代を生きる上で欠かせません。
若い世代へのメッセージ
特に若い方に伝えたいのは、「この先どんな自分でありたいのか」ということです。
スマホの画面に映るのは、華やかに活躍する人たちの姿です。実際にはごく限られた一部であるにもかかわらず、あたかも誰もが目指すべき姿のように見えてしまいます。けれど現実には、それは海外のバレエ団でトップとして活躍するような、極めて狭き門を突破した人たちです。
少し冷静に考えてみましょう。
30年、40年前に人気を集めた人が、今もなお同じように注目され続けているでしょうか。わずか10年前でさえ、当時は話題だったものの、その後ほとんど耳にしなくなった人も少なくありません。人気や注目は移ろいやすく、それを永続的に保つことは困難なのです。
一方で、人に知られていなくても、自分の人生を豊かに積み重ね、充実して生きている方もいます。年齢を重ねても変わらず満ち足りた日々を送るためには、外からの評価ではなく、自分の軸で日々の時間や仕事をどう積み重ねるかが大切です。
SNSやYouTubeの普及により、人気や注目が数字で可視化されやすくなりました。しかしそれはあまりに移ろいやすく、永続の保証はありません。だからこそ、目の前の成果に一喜一憂するだけでなく、人生の基盤となる学びや経験を積み重ねていくことが求められます。
「この瞬間にすべてを賭ける」という考え方は確かに力強いものです。けれども、その思考に偏ると長期的な視点を持つことが難しくなります。価値観をゆっくりと切り替えながら、長い人生を見据える姿勢を育てていくことが大切です。
ライフ&ワークという学びの場
SDAの「ライフ&ワーク」講義は、そうした未来を見据える力を育てる場です。バレエを中心に生きてきた方が、「これから自分はどう生きていきたいのか」を考えるきっかけを持つことができます。答えは一人ひとり違っていて構いません。大切なのは、未来を他人任せにせず、自分で選び取る準備を始めることです。
経済的な自立とは、単にお金を稼ぐことではなく、長い人生を安心して歩むための土台を整えること。その基盤を築くために、学び続け、少しずつ積み重ねていくことこそが、あなたを支え続ける力になります。
バレエで生きるは一見難しいものであると思いますが、人それぞれ、その正解はあると思います。
私たちもバレエを通じて生きる者として、みなさんのお役に立てたらと願っています。
バレエ安全指導者資格®︎ 事務局