ジュニアバレリーナと指導者のための婦人科ガイド
生理が来ないことに対して、それを「良いこと」と捉えたり、「バレエのためにはその方がいい」「太るから来ない方がいい」などといった誤った考え方をしていませんか?
バレエは美しさが求められる芸術であると同時に、要求される体力要素はアスリート並でもあります。そのため過度な練習や体重コントロール、心理的な影響により初経が遅れたり月経周期が乱れたりすることがあります。この状況を本人や指導する側が深刻に捉えることなく、医療機関に繋がっていないという現状も多くみられます。さらには冒頭に述べたように誤った考え方のもと指導されていることすらあるのです。
成長期のジュニアダンサーにとって健康な月経(生理)周期を保つことは、その後の一生を考えた時にとても大切なことです。まずは月経に対する正しい知識を身につけること、そして月経の不順を招くような状況を作らないこと、必要なときには速やかに医療機関にかかれることをこのページを通して学んでいきましょう。
⚫︎女性のライフステージと女性ホルモン
女性の体では、それぞれのライフステージにおける女性ホルモンの変動が健康上の問題を引き起こすことがあります。特にバレエダンサーが活躍する10代から20代前半といった年代にエストロゲンが不足すると、様々な問題が生じ、それはその後の人生に大きな影響を及ぼす可能性もあるのです。
⚫︎月経の基礎知識
卵巣から分泌される女性ホルモンのうち卵胞ホルモン(エストロゲン)は、子宮に作用して受精卵のベッドとなる子宮内膜を厚くしたり、思春期に乳房が大きくなるなど女性らしい体を作るホルモンです。更年期になると次第に減少します。黄体ホルモン(プロゲステロン)には、卵胞ホルモンによって厚くなった子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態に整える作用があります。これらが周期的に分泌されることで、月経周期が繰り返されます。
そもそも月経は、妊娠のために準備された子宮の内膜が妊娠しなかった場合にはがれて 血液と一緒に出てくる現象です。つまり、妊娠のための準備ともいえるわけです。
正常な月経の目安は、
・初経 平均年齢12歳
・月経周期 25〜38日
・出血持続日数 3〜7日間(平均5日間)
・閉経年齢 45〜56歳(平均50.5歳)
です。これらを逸脱する場合は何らかの疾病が隠れている可能性もあるので婦人科の受診を検討しましょう。
特に、
・月経が2週間以上続く
・2週間おきに次の月経が来る
・3ヶ月たっても次の月経が来ない
・月経以外のときに出血する
・15歳になっても初経が来ない
などのトラブルがあればぜひ婦人科を受診してください。
⚫︎バレエダンサーの月経不順、無月経について
アスリートにおけるデータでは、競技別にみた無月経の割合は審美系競技である体操で最も多く、新体操やフィギュアスケート、持久系競技であるマラソンやトライアスロンが続きます。初経年齢も審美系、持久系競技で遅い傾向にあり、専門的競技の開始年齢が早いものほど初経の遅れが見られる傾向にあります。
バレエでも同様に、初経発来の遅延や月経不順が多く見られるという報告がなされています。
⚫︎ 体重減少性無月経について
体重減少性無月経とは、短期間に体重が減少することによって引き起こされうる無月経をいいます。一般には3か月から6か月以内に元の体重の15~20%以上減少すると無月経になることが多いと言われます。神経性食欲不振症によるものがよく知られていますが、最近は単なる美容のための自発的な食事制限や過度のスポーツなどによるものも注目されるようになっています。
BMI 17.5未満で高率に無月経となり、BMI正常域の18.5~25では無月経は少ないとされています。
⚫︎女性アスリートの三主徴とは?
バレエダンサーが陥りやすい状態として、女性アスリートの三主徴があります。
女性アスリートの三主徴とは、「low energy availability(利用可能エネルギー不足)」の状態が続くことにより、卵巣を刺激する脳からのホルモン分泌が低下するために起こる「無月経」、それに引き続く「骨粗鬆症」をいいます。
詳しくはこちら【https://safedance.jp/bmst/selfcheckguide/】もご覧ください。
⚫︎ 骨密度低下について
骨密度は女性ホルモンであるエストロゲンと関連があります。無月経になるとエストロゲンが低下し、骨密度も低下してしまいます。女性の骨密度のピークは18歳頃ですので、10代で過激なダイエットをしてしまうと、獲得できるはずの骨量を獲得できないということになってしまいます。
骨密度が低下すると、将来的に骨粗しょう症になり骨折をしやすくなります。疲労骨折や低骨密度はバレエダンサーとしての寿命を縮めるのみでなく、その後の健康にまで悪影響を及ぼします。BMIが18.0以下で疲労骨折の既往歴があり、無月経の人は骨密度が低い可能性がありますので、あてはまる人は医療機関で骨密度を測定してみることをお勧めします。
骨密度の測定を考慮すべき状態
①利用可能エネルギー不足の方
→成人ではBMI 17.5 Kg/m2 以下
思春期では標準体重の85%以下の場合
②1年以上 低エストロゲン状態が疑われる方
→1年以上の無月経の場合
⚫︎ 上手に月経とつきあうために
ご自身の月経の日にちはメモしておきましょう。
月経のトラブルは時に、女性の人生に大きな影響を及ぼすことがあります。気軽に相談できるかかりつけの婦人科をもつようにしましょう。そして以下の場合は速やかに婦人科を受診するようにしましょう。
① 15歳で初経がない場合 この場合、運動やダイエットが原因ではなく別の病気が隠れている可能性もあります。
②3か月以上月経が止まっている場合
③ 月経痛や過多月経、月経前症候群など、パフォーマンスに影響を与える月経トラブルがある場合
⚫︎ 指導者の方へ
無理な減量を促したり、過剰なレッスンを行ったりすることは、月経不順や初経の遅れを招く可能性があります。良いコンディションで競技活動を行うためには、各自の運動量(トレーニング)に見合った栄養(食事)と、十分な休養(睡眠)が取れている必要があります。食事、運動、休養、睡眠のバランスのとれた生活が送れるように配慮し、レッスン時間を考えたり休養日の設定を行うなど、よりよい環境を作ることが求められます。
また、無月経や月経不順を見逃さないためには、生徒が相談しやすい雰囲気づくりをしたり、定期的に面談を行うなど、生徒に寄り添った指導を行うことが望ましいです。
⚫︎参考リンク
女性アスリートのためのコンディショニングブック https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/jiss/info/pdf/josei_athlete_conditioning_book.pdf
女子アスリートのコンディショニングガイド
https://www.sports-tokyo-info.metro.tokyo.lg.jp/joshi-athlete/pdf/joshi-athlete01.pdf?190517
日本産婦人科医会Q&A
https://www.jaog.or.jp/qa/
バレエ界全体の豊かな未来につながっていくことを、心より願っております。